人身取引・現代奴隷問題を知るための本と映画

Vol. 14 『告発・現代の人身売買~奴隷にされる女性と子ども~』

今日は最終回! あらかじめお詫びしておきますが長いです!

取り上げるのは文字通り“NFSJの原点”である一冊、『告発・現代の人身売買~奴隷にされる女性と子ども~』。原著タイトルは”Not For Sale”、著者は反人身取引NGO Not For Saleの共同創設者であり代表のデイヴィッド・バットストーンです。出版翻訳者の山岡が新しく翻訳するべき本を探しているときに出会ったこの本が、彼女の人生を変え、現在NFSJに関わるスタッフたちの人生をも変えてきました。(山岡がNFSJを立ち上げた経緯はこちら。http://notforsalejapan.org/wearenfsj/201807/349 )

出版から10年を振り返りつつ、代表の山岡万里子に、副代表の栗山のぞみが聞きました。

【書籍概要】
ある新聞記事から、自宅近くのお気に入りのインド料理レストランが、インドから米国内へと奴隷を送り込む人身売買の窓口となっていたことを知った著者。そのことをきっかけに人身売買の現状を取材しようと、アジア、アフリカ、東欧諸国、そして自身の足元の米国内も含め各地を巡る。人身売買被害者の出会う過酷さ、悲惨さとともに、「人は売り物ではない=not for sale 」という信念でそこに立ち向かう救出者たち、また自尊心を回復し「自分は売り物ではない=I am not for sale」と立ち直る被害者たちの姿をも描き出す。(本書は、現在は絶版となっていますが、多くの図書館に収蔵されており入手可能です。またamazon等では古本として購入することもできます。)

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栗山:『告発』の刊行から今年でちょうど10年。来年にはNFSJも活動10年に。この10年の大きな変化は? 

山岡:一番に思いつくのは、外に出ること、人と会うことが増え、また講演などをこなすうちに人前で話すのが苦でなくなったことかな。NFSJやJNATIP(人身売買禁止ネットワーク)の活動を通して、日本政府を含む各国政府、国連などの取り組みを調べる機会も増え、法律や国連条約がいかに私たちの生活と密接な関わりがあるかに気づいたことも大きな変化だと思う。

栗山:気づいたからこそ、変わらざるを得ないこともあるよね。

山岡:特にSSRC(消費から持続可能な社会をつくる市民ネットワーク)の活動を通して、環境問題やアニマルライツの問題に触れ、あらゆる社会問題がつながっていることを知ったのも大きいかな。「何を買うのか」をはじめ、衣食住に関わる私自身の生活スタイルが変わったと思う。

栗山:社会も大きく変化したね。

山岡:本書出版の後に、ISの台頭と欧州への大量の難民流出、ミャンマーからのロヒンギャ難民問題、南米からの難民北上の問題、気候変動の激化、中国の人権問題、日本では東日本大震災、AV出演強要や技能実習生問題、「子どもの貧困」の顕在化など、そして今はコロナ禍という大きな変動がありますね。脆弱になった社会では、この本の内容以上に、人身取引問題は悪化しているかも。

一方で、人身取引問題は、ここ10年でそれまで以上にクローズアップされるようになったと思う。日本でも徐々に認識が広がっていることを感じるし、NFSJの活動を通して少しだけでも貢献できたかな? 「確かな実感」とまでは言えないけれど。

栗山:本書に日本の事例は出てこないけれども、この本に出てくるエピソードで、日本の現実に通じると思うものはある?

山岡:第1章(東南アジア)や第4章(東欧)には、騙されて売春宿に連れていかれ、抵抗しても暴力と脅しで押し切られてしまうシーンがあり、これは、昨今話題になっている「AV出演強要」、つまり騙されたり、抵抗しても脅されたりしてアダルトビデオに出演させられてしまう例が重なります。

また、第2章では、わずかな借金のせいで悪意ある経営者に支配されていくインドの債務労働者が描かれていて、事情は違うけど、日本に来ている技能実習生や留学生の奴隷労働が思い浮かびますね。

栗山:今回のキャンペーンは、本や映画を紹介することで、興味を持ってくださった方が、小さくてもいつか変化を起こすことを願って企画。万里子自身、”Not For Sale”という本に影響を受けて変化を起こした一人として、改めていま伝えたいことは?

山岡:本書の第4章に、東欧からイタリアへ売られていく女性の話が出てくるのだけど、彼女がパン屋の店先で途方に暮れていたとき、その店の女主人が声をかけ、支援施設に連絡をしてくれたことで、救われる。このパン屋さんは、普段はふつうに商売をしているだけかもしれない。けれど、人身取引に苦しんでいる被害者が存在すること、そういう人々を支援する団体があることを知っていたので、すぐに女性に手を差し伸べることができた。

なるべく多くの人にこの問題を知ってもらうというNFSJの活動の目的は、まさにそこにあると思ってます。まずは問題を知る。そして、すぐに行動に結びつかなかったとしても、気にかけ続けてほしい。そこから、より深く調べるのでもいい、自分に合った方法で周囲に知らせるのでもいいし、どこかの団体でボランティアをする、自ら活動を立ち上げる、自分の会社の事業の中で改善策を打ち出す……など、それぞれの人に合ったさまざまな方法で、この人身取引をなくす動きが広がっていったらいいな、と思います。

(栗山のぞみ/山岡万里子)

【デイヴィッド・バットストーン著/山岡万里子訳/2010年(原作刊行は2007年)/朝日新聞出版/344ページ/日本語版は絶版。ただしアマゾンなどで中古を販売/https://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=12201

本キャンペーンは今回で終了です。最後までご愛読ありがとうございました。

Vol. 13 『国家と移民~外国人労働者と日本の未来~』

NPO法人「移住者と連帯する全国ネットワーク」の代表理事、鳥井一平さんの最新刊をご紹介します。鳥井さんは、日本に働きに来た“外国人”労働者が人権を侵害され搾取的に働かされている現場に急行し、保護し、権利の回復をサポートする活動を30年以上続けてきました。その活動はNHK番組『プロフェッショナル』をはじめ、様々に報じられています。

鳥井さんは、私たちNFSJも参加している「人身売買禁止ネットワーク(JNATIP)」の共同代表であり、ご一緒する機会も多くあります。本書にも通じる印象的なエピソードを一つご紹介しましょう。それは、2017年にJNATIPで院内集会を企画していたときのこと。集会のタイトルをどうするかという議論で、鳥井さんが「『偽装される人身売買』でいきましょう。技能実習制度そのものが、発展途上国への技術移転という名目の、国を挙げた偽装なんですよ。日本社会の在り方が『偽装』を受け入れ、許してしまっている」とおっしゃり、一発で決まりました。

本書では、人身取引、過酷な労働搾取になりがちな技能実習制度を、日本社会がどのように「偽装」してきたのか、多くの生々しいケースとともに述べられています。また、日本で外国人労働者がどのように扱われてきたのか、その受け入れ政策の歴史を読むにつけても、いかに場当たり的で、まやかしが続けられてきたかがわかります。

「偽装」である「技能実習制度」が、「遅れている国から来たひとたちに、日本の優れた技能を教えてあげる」という“上から目線”の私たちをつくっていると鳥井さんは指摘します。そうではなく、「人口が減少し産業の担い手が危機的に少なくなっている日本に、働きに来てくれている人たち」として彼らを見ることが必要です。そのためにも一刻も早く「技能実習制度」を止めて、彼らと共に生きるための「移住労働者受け入れ制度」をつくるべきだと本書の中では繰り返し述べられています。

最後に本書から一部引用します。いま、変わるべきは誰なのかは、明確です。
……

「移民」というのは、実は「移民」という言葉で区別されるものではなく、「この社会の一員になろうとしている人たち」と考えた方がいいのです。そして実は今、私たちの社会の方も、「この社会の一員になろうとしている人たち」を求めているのです。

(栗山のぞみ)

【鳥井一平著/2020年/集英社新書/256ページ/860円+税/https://shinsho.shueisha.co.jp/kikan/1025-b/

Vol. 12「ネファリアス~売られる少女たちの叫び~」(映画)

この映画を見ることは、はっきり言って、あまり愉快な体験ではありません。性を売り買いさせるために若い女性の精神をずたずたにし人間性を奪っていく詳細が、生々しく描かれているからです。若い彼女たちが「人」ではなく「モノ」として扱われているさまを目の当たりにして、実際に気分が悪くなる場面もあります。

貧困、無国籍、親を失うこと、あるいは、理解しがたいけれど親が家計のために長女を売春宿に送りこむことといった、人身取引を引き起こす要因を深く掘り下げて見てみると、この問題が非常に複雑であることがわかります。人身取引は東ヨーロッパからアメリカ・ラスベガスまで、幅広い地域に及んでいます。

元ポン引き、ソーシャルワーカー、精神科医、牧師、NPOの代表など、さまざまな立場の人へのインタビューに耳を傾けることで、知らぬ間に忍び寄る悪によって人生が永遠に損なわれてしまう、その傷の深さを知ることができます。幸運にも救出された人であっても、いったい自分に何が起きたのか、どうやったら乗り越えられるのかを理解するために、生涯カウンセリングを受け続けます。悲しいことにそこに到達できずじまいに終わる人もいます。

『ネファリアス』は被害者への共感が込められた、力強く、示唆に富む映画です。そして希望も提示されます。後半では売買春における「北欧モデル(*)」の解説があり、また元売春婦や元ポン引きによる証(あかし)と共に、キリスト教の力強いメッセージが、人々に祈ることを促します。私はこの映画を、クリスチャンでない人にもぜひ観ていただきたいと思っています。恐ろしい現実について知ることができるだけでなく、人生は変えられるという、その可能性についても語っている作品だからです。

「この作品は、現代の奴隷制とは教育や開発の問題ではなく、倫理的な問題なのだということを主張して終わります。女性たちは、性的な存在である以上に、内なる価値を持った存在なのだという認識が失われていることが、問題なのです。」(オンライン上の視聴者評より)

*「北欧モデル」は四つの柱から成っています。買春客は犯罪者として処罰され、一方売春婦は罰せられず、性産業から脱するための支援とサービスを受けられます。そして一般の人々への啓発と教育が行われます。

(キャシー・バートン・ルイス/神門バニー)

【ベンジャミン・ノロ監督/2011年/1時間39分/
制作者Exodus Cryのウェブサイト(予告編あり/英語のみ)
https://exoduscry.com/oursolution/film/
YouTubeにて無料視聴可(日本語字幕あり)
https://www.youtube.com/watch?v=MFaDHgXPbUg 】

Vol. 11 『ななさんぽ~弱さと回復の“現場”で神がいるのか考えた~』

青い空、白い雲、草原や森や花々。小鳥や蝶が舞い、子犬やリスが駆け回る…。思わず「かわいい!」と引き寄せられる絵柄が持ち味のみなみななみさんは、小さな命への温かな眼差しにあふれるイラストレーターさんです。

ななみさんが、様々な社会活動団体や福祉施設を訪ね、丁寧に取材して毎回3ページの漫画に仕上げた「ななさんぽ」。『百万人の福音』というキリスト教雑誌に連載され、やがて単行本化されたのが本書です。

NFSJも2015年に取材を受け、光栄なことに、この本ではトップバッターで紹介されています。その理由は、「日本でも起きている人身取引の問題に、もっと多くの人に目を向けてほしいから」とのこと。ななみさんはNFSJや、NFSJが参加している「消費から持続可能な社会をつくる市民ネットワーク(SSRC)」にも無償でイラストを提供するなど、活動を応援してくださっています。

『ななさんぽ』には、ホームレス、アルコール依存者、在日外国人、精神障害者、ひきこもり、虐待被害児童、被災者など、社会の周縁に追いやられがちな人々に手を差し伸べ共に生きようと努力する素晴らしい人々がたくさん登場します。それぞれに、自身が挫折に苦しみ希望を見失いながらも、祈りと励ましの中で立ち上がり、喜びをもって他者に仕え、自らの成長に感謝しつつ生きている人々です。

そんな人々の経験談は暗く重いかと思いきや、ななみさんのイラストのおかげもあって、読んでいて本当に温かい気持ちになれるのです。そしてもう一つ、この本の最大の特徴は、作者のななみさん自身が、自分のこれまでの思いや行動を振りかえって自問し、何かしらの答えを見つけていくプロセスが個々のルポの最後に語られることです。

漫画という親しみやすい形で、たくさんの宝物のような人生がぎゅっと凝縮された本書は、クリスチャンかそうでないかに関わらず、読者の心に多くの新しい知恵と人生の指針をもたらしてくれることでしょう。(山岡万里子)

【みなみななみ著/2019年/いのちのことば社・フォレストブックス/175ページ/1,400円+税/https://www.gospelshop.jp/shopdetail/000000015998/
みなみななみさんウェブサイト http://minaminanami.com/) 】

Vol. 10 『AV出演を強要された彼女たち』

ある日スカウトに声をかけられ、「モデルや女優になれる」「高収入」の誘いについ耳を貸してしまった。その先にAV出演の強要、そしてそこから逃れられない地獄が女性たちを待っていた……。本書は、実際にAV出演を強要された被害女性たちの相談に関わった著者の沢山の経験から、その巧妙な手口と恐ろしい実態を描いたものです。

「話を聴くだけ」と思ったら、とんでもない。言葉巧みに相手のペースで話が進み、時間が経つほど、断り辛い状況に女性たちは追い込まれていきます。「契約しなければ解放されない」と思い、逃れるために契約書にサインしたら最後、今度は契約書を盾に、「断るなら違約金を払え」と脅される。一本だけと説得されて苦汁を飲んで出演したら、想像を絶する恥辱を強要され、その映像を親や知人にばらすと更に脅される。法律も知らない、世間も知らない若い女性たちが、狡猾な手口に取り込まれ、ますます逃げられない状況に追い込まれて行きます。

AV産業の年間市場規模は、4~5千億円。年間約2万タイトルが生産されているといいます。単純計算すると、日々54作品が毎日生産されていることになります。その陰で女性たちへの恐ろしい性暴力と人権侵害が行われ、それが今も合法的な産業として、実に「娯楽」として提供され続けているのです。

そのような被害を受ける女性たちは、自分のことを被害者であることにも気づかず、「自分が悪い」と自分を責め、逃れる術を知りません。自殺に追い込まれる女性たちも多いといいます。そのような被害者たちに寄り添い、痛みと苦しみを共に受け止めながら、解決の道を共に探る救援者たちの働きを通して、被害女性たちが次第に自分を取り戻し、強くされて行く姿に感銘を覚えました。

2018年1月に「AV強要淫行勧誘容疑で制作会社社長ら2名逮捕」のニュースが流れました。これらも救援者たちの血のにじむ努力の賜物でしょう。重い内容の書ではありますが、確かな希望も指し示しているように思いました。(星出卓也)

【宮本節子著/ちくま新書/2016年/240ページ/800円+税/https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480069344/ 】

 

Vol. 9 「おいしいコーヒーの真実」(映画)

今日私はいつものように、コーヒー片手に原稿を書いています。コーヒーは世界でも石油に次いで貿易額第2位の生産物。「フェアトレード」が盛んだということは、裏を返せばアンフェアな取引が横行しているのだろうと想像はしていました。けれど正直ここまでとは思っていませんでした――この映画を見るまでは。

エチオピア南部オロミア州。生産農家に対し、豆1キロ(約80杯分)の買取り価格はたったの24円です。カフェでの1杯が約300円とすると、生産者に支払われるのは0.1%だけ。ネスレ社など巨大企業4社が支配するコーヒー業界では、国際取引価格はニューヨークの取引所で決まり、なおかつ生産者から消費者に届くまでの間に6つの中間業者を経由するからです。

タデッセ・メスケラは、オロミア州コーヒー農協連合会の代表です。なんとか生産者の生活を向上させようと(子どもを学校に行かせ栄養ある食事と安全な水を与えるために)、欧米の国に出かけては良心的な企業を回り、コーヒー見本市に出展し、直接買い付けてくれる焙煎業者を探します。スーパーの棚一面に並ぶ何十種類もの商品の中にエチオピア産が見つからず、ため息をついたりもします。

ある農家での、成人した息子の言葉が突き刺さります。「働きづめの父さんには申し訳ないけれど、僕はコーヒー農家にはならない。僕たち家族が惨めな思いをしているのはコーヒーのせいだ。」別の生産者の男性は、コーヒーの木は切り落とし、割のいい麻薬植物を植えるのだと言います。エチオピアでは毎年700万人が緊急食糧援助を受けています。仕事が無いわけではない。むしろ汗水たらして働いても、業者に買い叩かれ、生きていくのがやっとなのです。「おいしいコーヒーの真実」は、あまりに苦く、切ないものでした。

日本は世界第4位のコーヒー消費大国です。つまり私たちがフェアトレード、あるいは現地から直接買い付けている製品を選べば、この状況は確実に変わるはず。商品の旅路の出発点で奔走するタデッセのような人々を、ここ到着点からも支えていきませんか?(山岡万里子)

(*作中、スターバックス社を暗に批判している描写がありますが、撮影時から15年近くを経て、同社が現在倫理的調達に力を入れるようになっていることを補足しておきます。)

【マーク・フランシス、ニック・フランシス監督/2006(日本公開2008年)/1時間17分/
・UPLINKレンタル(72時間)500円 https://vimeo.com/ondemand/uplinkcloud063
・アマゾンレンタル(48時間)300円 アマゾンプライム無料 https://www.amazon.co.jp/dp/B01G95M91W/
・映画公式サイト(UPLINK) https://www.uplink.co.jp/oishiicoffee/top.php
・予告編 https://www.youtube.com/watch?v=1ZtSo9gje9E

Vol. 8 『THE LAST GIRL-イスラム国に囚われ、闘い続ける女性の物語-』

ヤズィディ教徒の文化、地理的状況、信仰、そして生活について語っている本書は、その情報だけでも一読に値します。けれども、この実話が力強く描き出しているのは、著者ムラドが性奴隷として拘束され、家族や友人を失いながらも、懸命に生き抜こうとする勇気です。

受けた虐待の描写も、それに対する勇気ある言動も、とてもリアルに綴られています。生き延びるための闘いの原動力になったのはヤズィディ教徒としての信仰であり、信じがたいほど非人間的な地獄の中にあっても、それが著者を支え続けました。

ムラドや虐殺の犠牲者たちが受けた仕打ちの非情さ・邪悪さは哀しく衝撃的です。ですが同時に、被害者を助けるために自らも危険を冒した者たちの勇気には、心底励まされます。ムラドは性奴隷という運命から生還しただけでなく、悪に対峙する人々を生涯をかけて助けようとしています。この素晴らしい女性の驚くべきストーリーを、ぜひ読んでほしいと思います。
(キャシー・バートンルイス)

【ナディア・ムラド著//吉井智津訳/2018年/東洋館出版社/416ページ/1,800円+税

 http://www.toyokan.co.jp/book/b378140.html

Vol. 7 『使い捨て外国人~人権なき移民国家、日本~』

“日本にこの人がいてくれて、本当に良かった!” 指宿昭一弁護士は、そんな風に思わせてくれる一人です。本書では触れられませんが、バイト生の頃から組合活動に飛び込み、必要に迫られて弁護士になった(しかも司法試験に17回も挑戦!)根っからの活動家であり、正義のヒーローです。

そんな指宿さんが今年上梓したばかりの本書は、タイトルこそ挑発的ですが、本文は事実を淡々と簡潔に綴る、読みやすい外国人問題入門書です。それでも、技能実習生の「時給300円」「98%は労基法違反を申告できず」「社長から50回以上強姦被害」「暴力と脅しで帰国を強制」「ムスリム差別」など、でたらめで非人間的な企業や団体、それを放置している政府に、憤りで本を持つ手が震えるほどです。

本書の前半は外国人労働者の搾取問題を、著者自身が弁護人として関わった事件を例に解説。ですが、指宿さんが「実習生問題よりさらに劣悪で絶望的」と評するのが、後半で語られる、入管による人権侵害問題です。

母国での迫害を逃れ辿り着いた難民申請者すら不法滞在者として扱い、退去命令に背いたら刑務所のような入管施設に収容。「仮放免」されてもいつ再び収容されるかわからず、収容は無期限・長期に及び、身体や精神を病んだり、絶望して自殺を図ったり、抗議のハンストで亡くなる人までいます。何十人もチャーター機に乗せ母国へ「一斉強制送還」させるなど荒っぽいことも行いつつ、一斉送還はコストがかかるため、長期収容で根負けし自費で帰国するのを促している……外国人に人権を認めないこの入管政策は、日本の中でも特に冷酷に思えます。

真の多文化共生は、人を人として見ることなくして実現できません。日本が国際社会の中で尊敬を取り戻すには、「人権なき移民国家」のままであってよいはずがありません。そのことを再認識させてくれるこの本を、ぜひ多くの方に勧めたいと思います。(山岡万里子)

【指宿昭一著/2020年/朝陽会/136ページ/1,000円+税/https://www.gov-book.or.jp/book/detail.php?product_id=352320

Vol. 6 「The Price of Free」(映画)

インドの混み合った街中を走る男たち。ある建物に押し入り、階段を登り、鍵をこじ開けて部屋の中を捜索する。「いない!」「どこだ!」と飛び交う怒号。さらに階段を駆け上ってたどり着いた屋上に積まれた無数の袋の山。その隙間に、押しつぶされるように子どもたちが隠されていた……。

アクション映画のような幕開けの『The Price of Free』 は、8万人以上の子どもたちを奴隷労働から救い出し、2014年にノーベル平和賞を受賞したカイラシュ・サティヤルティさんの活動を紹介するドキュメンタリー映画です。

映画には、実際の救出シーンに加え、子どもたちに心とからだのケアと勉強の機会を与え、社会復帰につなげるリハビリ施設「バル・アシュラム」の様子も映し出されます。最初は怯えて泣いてばかりの子、また職場で叩かれたり、作業中に怪我をさせられたり、満足に食事を与えられなかった子どもたちが健康と笑顔を取り戻す姿には、ホッとさせられます。

一方で、この活動が常に命がけであることも映画は伝えます。潜入調査から見えてくる人身売買業者たちの暗躍、カイラシュさんや家族への脅迫、賄賂の蔓延など、救出活動を阻む力は圧倒的です。それでもカイラシュさんは「あらゆるアプローチが必要だ」と熱く語り、苦悩の中でも諦めません。

どうしたら、私たちはカイラシュさんたちと連帯することができるでしょう?  一つの方法として、映画の中で子どもたちが作っている品物に目を凝らしてみることを提案します。見終わったら、「映画の中に出てきたような商品を選んでいないか」を自問してみましょう。すると、自ずと私たちの購買行動は変わっていくはずです。カイラシュさんが映画の中で言うように「すべての子どもが自由な子ども時代を享受できるように」、今日からできることがあります。(栗山のぞみ)

【デレック・ドニーン監督/2018年/1時間27分 

YouTubeで無料視聴可(日本語字幕あり)
https://www.youtube.com/watch?v=UsqKz1hd_CY  

予告編(英語のみ)https://www.youtube.com/watch?v=S01crxKPeM0 】

 

Vol. 5 『ルポ・ニッポン絶望工場』

あっという間に読み終えました。日ごろから「現代の奴隷」の話をしながら、足元のここ日本、しかも自分のすぐ身近で起きていたのにまだまだ知らない状況があり、かなりショックです。技能実習生の問題はメディアでもしばしば取り上げられるようになりましたが、留学生の問題はほとんど報じられません。けれども実習生より一部の留学生(「偽装留学生」と本書では呼んでいます)のほうが、より酷い状況に置かれていると著者は言います。

 一方、人手不足解消を期待されEPAで来日したフィリピンやインドネシアの介護士・看護師らが、国家試験に合格できず失意のうちに帰国という矛盾に満ちた状況に、かねてから疑問を抱いていましたが、その理由がわかりました。結局、政治行政それぞれの都合に振り回されていたというオチだったのです。

 目の前のことや自分()の利益を最優先する関係者が好き勝手にやり、誰もが旨い汁を吸うことばかり考えていては、移住労働者政策がうまくいくはずがありません。労働力をうまく利用してやるという上から目線の政策ばかりでは、そのうち頼んだって海外から人は来てくれなくなります。いや、もうそういう状況は始まっています。せっかく夢を抱いて来日しても、騙されたと知って恨みを育む…日々そんな外国人を増やしているのです。日本は本当にそれでいいのでしょうか? 

 タイトルにある「絶望」の二文字は、搾取される外国人労働者の気持ちを指してつけられたのでしょう。けれど読了後、これは私たちの政府、そして納税者である私たち自身の将来に対する「絶望」に他ならない、と強く感じました。この国に絶望を感じているのは、彼らではなく私自身なのです。(山岡万里子)                                                                     【*2016年に執筆】

【出井康博/2016/講談社+α新書/192ページ/840円+税https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000202016 】