人身取引・現代奴隷問題を知るための本と映画

Vol. 4『女子高生の裏社会 ~「関係性の貧困」に生きる少女たち~』

人身取引はどこで起こっているのでしょうか。答えは、もちろん世界の各地で……です。ということは、私たちの隣にもあるということ? 一般社団法人Colabo の代表として、10代の少女たちに目を向けた活動を行っている仁藤夢乃さんのこの本を読めば、その問いにうなずく他ありません。

前作の『難民高校生』(英治出版)では、家族や学校と折り合いが悪く、居場所を失った少女たちが街中で難民化する様が描かれています。本書ではその彼女たちが、「JKリフレ」(添い寝やマッサージ等)、「JKお散歩」(客との1対1のデート)等、2014年の米国務省の人身取引に関する年次報告書でも、日本の人身取引の例として指摘された「JK(女子高生)産業」で“真面目に”働く姿が記されています。

著者は、家庭や学校での居場所や関係性をたやすく失ってしまう彼らにとって、JK産業がニセの(実際には少女たちを搾取しているにもかかわらず)セーフティネットになってしまっていると指摘します。そして、彼女たちとつながりながら、安全な居場所を作るべく尽力されています。この実態を知った私たちは何をしたらよいのでしょうか。読み終えても私自身への問いかけは続きます。 (栗山のぞみ)

仁藤夢乃著/2014/光文社新書/264ページ/定価760円+税/https://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334038144

Vol. 3 「未来を写した子どもたち」(映画)

NY在住の写真家ザナ・ブリスキがインド・コルカタへ旅し、売春街で暮らす子どもたちと知り合いになります。彼女は子どもたちにカメラを渡して撮影方法を教えます。写真を撮ることで、子どもたちが自分たちの人生を向上させるきっかけになればという思いからです。

このドキュメンタリーは、売春街で育つ子どもたちの視点と彼らの置かれた生活、そしてその多くがまた売春婦となっていくその運命を追っていきます。制作に当たっては、NGO団体“Kids With Cameras”(現 ” Kids With Destiny”)が協力しています。

人身取引問題そのものをダイレクトに扱ってはいませんが、人身取引被害者やその周囲で間接的に影響を受けている人たちの置かれた状況を知らしめ、わたしたちに新たな問題提起を投げかける作品です。(ソニー・S)

【監督:ザナ・ブリスキ、ロス・カウフマン/公開:2004年(米)2008年(日)/1時間25分/「アジアンドキュメンタリーズ」サイトから495円で7日間視聴可(日本語字幕つき)https://asiandocs.co.jp/con/71?from_category_id=5
予告編
https://www.youtube.com/watch?time_continue=22&v=UM_BVLB7mZI&feature=emb_logo

Vol. 2 『世界中の子どもの権利をまもる30の方法~だれひとり置き去りにしない!~』

「子どもの権利条約」が国連で採択されて30年、日本政府が批准して25年という節目の年の2019年10月に刊行されました。

子どもの権利と暮らしを守るために各分野で活動を続けてきた執筆者たちのそれぞれの取り組みごとに、具体的な例をあげながら、子どもたち自身が問題を知り解決に近づくための30のアプローチを紹介。

最初に紹介される記事は人身売買の例で、カンボジアの少女の話から日本のJKビジネスにまで言及しています。また「早すぎる結婚」や「児童労働」など子どもたちが直面する問題をさまざまな角度から取り上げながら国際理解・権利学習ができる貴重な一冊です。

私は今回、イラストレーターとしてこの本の出版プロジェクトに加わり、どのイラストも本文中の問題を次世代に持ち越さないように願い、また世界中の子どもたちのことを思いながら描きあげました。ぜひ、お手にとって読んでみてください。(ナムーラ ミチヨ)

【認定NPO法人国際子ども権利センター+甲斐田万智子編/2019/合同出版/176ページ/定価1,800円+税/https://www.godo-shuppan.co.jp/book/b475263.html

Vol.1 『ファストファッション~クローゼットの中の憂鬱』

お気に入りとは言えないけれど価格の割に品質はまあまあ、でもどれも似たような服が周囲に溢れるようになったのはいつからでしょうか。

本書の前半では、アバクロンビー&フィッチ、Gap、H&Mなど多数のブランドを挙げながら、ファストファッションに牛耳られるようになったアメリカのアパレル業界の構造が紹介されます。

バングラデシュや中国などの縫製工場見学の描写も興味深いのですが、俄然面白くなるのは「搾取は避けたいけれど価格の安さには勝てない」と思っていた著者自身が変化していく後半。彼女がどのようにして「クローゼットの中の憂鬱」を手放すのかは、読んでのお楽しみです。

あとがきで、著者は、ファストファッションのみではなく「早く、安く」と人々を急き立てる社会について書いたと述べています。また、生産者と消費者の隔たりが搾取の遠因になる、とも言っています。私たちが作り手を想像するゆとりをもち、さらには人と人がつながることにこそ、搾取を、現代の奴隷制を解決するカギがあると改めて思わされました。(栗山のぞみ)

エリザベス・L・クライン著/鈴木素子訳/2014/春秋社320p/ 2,200円+税https://www.shunjusha.co.jp/book/9784393333327.html