Vol. 5 『ルポ・ニッポン絶望工場』

あっという間に読み終えました。日ごろから「現代の奴隷」の話をしながら、足元のここ日本、しかも自分のすぐ身近で起きていたのにまだまだ知らない状況があり、かなりショックです。技能実習生の問題はメディアでもしばしば取り上げられるようになりましたが、留学生の問題はほとんど報じられません。けれども実習生より一部の留学生(「偽装留学生」と本書では呼んでいます)のほうが、より酷い状況に置かれていると著者は言います。

 一方、人手不足解消を期待されEPAで来日したフィリピンやインドネシアの介護士・看護師らが、国家試験に合格できず失意のうちに帰国という矛盾に満ちた状況に、かねてから疑問を抱いていましたが、その理由がわかりました。結局、政治行政それぞれの都合に振り回されていたというオチだったのです。

 目の前のことや自分()の利益を最優先する関係者が好き勝手にやり、誰もが旨い汁を吸うことばかり考えていては、移住労働者政策がうまくいくはずがありません。労働力をうまく利用してやるという上から目線の政策ばかりでは、そのうち頼んだって海外から人は来てくれなくなります。いや、もうそういう状況は始まっています。せっかく夢を抱いて来日しても、騙されたと知って恨みを育む…日々そんな外国人を増やしているのです。日本は本当にそれでいいのでしょうか? 

 タイトルにある「絶望」の二文字は、搾取される外国人労働者の気持ちを指してつけられたのでしょう。けれど読了後、これは私たちの政府、そして納税者である私たち自身の将来に対する「絶望」に他ならない、と強く感じました。この国に絶望を感じているのは、彼らではなく私自身なのです。(山岡万里子)                                                                     【*2016年に執筆】

【出井康博/2016/講談社+α新書/192ページ/840円+税https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000202016 】