Vol. 9 「おいしいコーヒーの真実」(映画)

今日私はいつものように、コーヒー片手に原稿を書いています。コーヒーは世界でも石油に次いで貿易額第2位の生産物。「フェアトレード」が盛んだということは、裏を返せばアンフェアな取引が横行しているのだろうと想像はしていました。けれど正直ここまでとは思っていませんでした――この映画を見るまでは。

エチオピア南部オロミア州。生産農家に対し、豆1キロ(約80杯分)の買取り価格はたったの24円です。カフェでの1杯が約300円とすると、生産者に支払われるのは0.1%だけ。ネスレ社など巨大企業4社が支配するコーヒー業界では、国際取引価格はニューヨークの取引所で決まり、なおかつ生産者から消費者に届くまでの間に6つの中間業者を経由するからです。

タデッセ・メスケラは、オロミア州コーヒー農協連合会の代表です。なんとか生産者の生活を向上させようと(子どもを学校に行かせ栄養ある食事と安全な水を与えるために)、欧米の国に出かけては良心的な企業を回り、コーヒー見本市に出展し、直接買い付けてくれる焙煎業者を探します。スーパーの棚一面に並ぶ何十種類もの商品の中にエチオピア産が見つからず、ため息をついたりもします。

ある農家での、成人した息子の言葉が突き刺さります。「働きづめの父さんには申し訳ないけれど、僕はコーヒー農家にはならない。僕たち家族が惨めな思いをしているのはコーヒーのせいだ。」別の生産者の男性は、コーヒーの木は切り落とし、割のいい麻薬植物を植えるのだと言います。エチオピアでは毎年700万人が緊急食糧援助を受けています。仕事が無いわけではない。むしろ汗水たらして働いても、業者に買い叩かれ、生きていくのがやっとなのです。「おいしいコーヒーの真実」は、あまりに苦く、切ないものでした。

日本は世界第4位のコーヒー消費大国です。つまり私たちがフェアトレード、あるいは現地から直接買い付けている製品を選べば、この状況は確実に変わるはず。商品の旅路の出発点で奔走するタデッセのような人々を、ここ到着点からも支えていきませんか?(山岡万里子)

(*作中、スターバックス社を暗に批判している描写がありますが、撮影時から15年近くを経て、同社が現在倫理的調達に力を入れるようになっていることを補足しておきます。)

【マーク・フランシス、ニック・フランシス監督/2006(日本公開2008年)/1時間17分/
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・映画公式サイト(UPLINK) https://www.uplink.co.jp/oishiicoffee/top.php
・予告編 https://www.youtube.com/watch?v=1ZtSo9gje9E