Vol. 14 『告発・現代の人身売買~奴隷にされる女性と子ども~』

今日は最終回! あらかじめお詫びしておきますが長いです!

取り上げるのは文字通り“NFSJの原点”である一冊、『告発・現代の人身売買~奴隷にされる女性と子ども~』。原著タイトルは”Not For Sale”、著者は反人身取引NGO Not For Saleの共同創設者であり代表のデイヴィッド・バットストーンです。出版翻訳者の山岡が新しく翻訳するべき本を探しているときに出会ったこの本が、彼女の人生を変え、現在NFSJに関わるスタッフたちの人生をも変えてきました。(山岡がNFSJを立ち上げた経緯はこちら。http://notforsalejapan.org/wearenfsj/201807/349 )

出版から10年を振り返りつつ、代表の山岡万里子に、副代表の栗山のぞみが聞きました。

【書籍概要】
ある新聞記事から、自宅近くのお気に入りのインド料理レストランが、インドから米国内へと奴隷を送り込む人身売買の窓口となっていたことを知った著者。そのことをきっかけに人身売買の現状を取材しようと、アジア、アフリカ、東欧諸国、そして自身の足元の米国内も含め各地を巡る。人身売買被害者の出会う過酷さ、悲惨さとともに、「人は売り物ではない=not for sale 」という信念でそこに立ち向かう救出者たち、また自尊心を回復し「自分は売り物ではない=I am not for sale」と立ち直る被害者たちの姿をも描き出す。(本書は、現在は絶版となっていますが、多くの図書館に収蔵されており入手可能です。またamazon等では古本として購入することもできます。)

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栗山:『告発』の刊行から今年でちょうど10年。来年にはNFSJも活動10年に。この10年の大きな変化は? 

山岡:一番に思いつくのは、外に出ること、人と会うことが増え、また講演などをこなすうちに人前で話すのが苦でなくなったことかな。NFSJやJNATIP(人身売買禁止ネットワーク)の活動を通して、日本政府を含む各国政府、国連などの取り組みを調べる機会も増え、法律や国連条約がいかに私たちの生活と密接な関わりがあるかに気づいたことも大きな変化だと思う。

栗山:気づいたからこそ、変わらざるを得ないこともあるよね。

山岡:特にSSRC(消費から持続可能な社会をつくる市民ネットワーク)の活動を通して、環境問題やアニマルライツの問題に触れ、あらゆる社会問題がつながっていることを知ったのも大きいかな。「何を買うのか」をはじめ、衣食住に関わる私自身の生活スタイルが変わったと思う。

栗山:社会も大きく変化したね。

山岡:本書出版の後に、ISの台頭と欧州への大量の難民流出、ミャンマーからのロヒンギャ難民問題、南米からの難民北上の問題、気候変動の激化、中国の人権問題、日本では東日本大震災、AV出演強要や技能実習生問題、「子どもの貧困」の顕在化など、そして今はコロナ禍という大きな変動がありますね。脆弱になった社会では、この本の内容以上に、人身取引問題は悪化しているかも。

一方で、人身取引問題は、ここ10年でそれまで以上にクローズアップされるようになったと思う。日本でも徐々に認識が広がっていることを感じるし、NFSJの活動を通して少しだけでも貢献できたかな? 「確かな実感」とまでは言えないけれど。

栗山:本書に日本の事例は出てこないけれども、この本に出てくるエピソードで、日本の現実に通じると思うものはある?

山岡:第1章(東南アジア)や第4章(東欧)には、騙されて売春宿に連れていかれ、抵抗しても暴力と脅しで押し切られてしまうシーンがあり、これは、昨今話題になっている「AV出演強要」、つまり騙されたり、抵抗しても脅されたりしてアダルトビデオに出演させられてしまう例が重なります。

また、第2章では、わずかな借金のせいで悪意ある経営者に支配されていくインドの債務労働者が描かれていて、事情は違うけど、日本に来ている技能実習生や留学生の奴隷労働が思い浮かびますね。

栗山:今回のキャンペーンは、本や映画を紹介することで、興味を持ってくださった方が、小さくてもいつか変化を起こすことを願って企画。万里子自身、”Not For Sale”という本に影響を受けて変化を起こした一人として、改めていま伝えたいことは?

山岡:本書の第4章に、東欧からイタリアへ売られていく女性の話が出てくるのだけど、彼女がパン屋の店先で途方に暮れていたとき、その店の女主人が声をかけ、支援施設に連絡をしてくれたことで、救われる。このパン屋さんは、普段はふつうに商売をしているだけかもしれない。けれど、人身取引に苦しんでいる被害者が存在すること、そういう人々を支援する団体があることを知っていたので、すぐに女性に手を差し伸べることができた。

なるべく多くの人にこの問題を知ってもらうというNFSJの活動の目的は、まさにそこにあると思ってます。まずは問題を知る。そして、すぐに行動に結びつかなかったとしても、気にかけ続けてほしい。そこから、より深く調べるのでもいい、自分に合った方法で周囲に知らせるのでもいいし、どこかの団体でボランティアをする、自ら活動を立ち上げる、自分の会社の事業の中で改善策を打ち出す……など、それぞれの人に合ったさまざまな方法で、この人身取引をなくす動きが広がっていったらいいな、と思います。

(栗山のぞみ/山岡万里子)

【デイヴィッド・バットストーン著/山岡万里子訳/2010年(原作刊行は2007年)/朝日新聞出版/344ページ/日本語版は絶版。ただしアマゾンなどで中古を販売/https://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=12201

本キャンペーンは今回で終了です。最後までご愛読ありがとうございました。