ボランティアスタッフのリレーエッセー

スタッフのリレーエッセー(6) 神と人身取引 (神門バニー)

神と人身取引――そこにどういう関係があるでしょうか。9年ほど前、私の教会 (東京バプテスト教会) に一人の女性宣教師が訪れ、世界中で売春を強要されている女性や少女の写真を見せて話をしてくれたときに、「人身取引」という言葉を初めて聞きました。それまでは、売春婦というのはお金のためにその道に入った、堕落した女性たちだと思っていました。でも実際には、女性たちの多くがその仕事を強制されていたのです。

その後、月に一度礼拝後に何人かで集まって、この状況について祈り、神が私達をどう用いてくださるのかを願い求めるようになりました。そして導きによって2012年の初頭に新しい「ミニストリー」が結成され、私がそのリーダーになりました。ミニストリーの名前「ソルト&ライト(塩と光)」は、マタイによる福音書でイエスが語った言葉に由来しています。イエスに従う者はこの世の中の塩や光となり、社会に影響を与えて、良きもの、神の方向へと人々を向けさせるべきだというくだりです。

そのときまでに、あらゆる形の奴隷労働を描いたデイヴィッド・バットストーンの著書『Not For Sale』を読み、奴隷労働は日本でも起きていると聞いていました。バットストーンの団体の日本支部が設立されたと知り、神が私をそこにボランティアとして加え、より深く学び、S&Lのより良いリーダーになるよう導いているのだと感じました。以来多くを学び、多くを分かち合ってきましたが、この人身取引という悪を止める最初の一歩は、他の人々に気づいてもらうことだと知りました。そして教会では他にも祈るという大事な使命を果たすことができるので、毎週祈りの時を持つようになりました。S&Lのパンフレットには詩編10編14節の言葉を印刷しています。「あなた(神)は必ずご覧になって、御手に労苦と悩みをゆだねる人を、顧みてくださいます。」

NFSJの他のスタッフとの何年にもわたる共同作業は、本当に恵みに満ちたものになっています。みな本当に思いやりがあって献身的なのです。NFSJで私がもう一つ気に入っているのは、バイリンガルの団体だということ。日本語を話す人にも英語を話す人にも、情報をシェアできるからです。NFSJで私がずっと手伝っているのは、他のスタッフ(主に代表の山岡万里子)が書いたり日本語から訳したりした英文を、英語ネイティブとしてチェックすることです。日本の状況についての正確な情報を世界に発信することは大切だと思っています。神そして皆さんの力によって、人身取引を無くすことができるはずだと思っています!

スタッフのリレーエッセー (5) 当事者と関わりがなくても(山岡万里子)

11年前、神楽坂の小さな洋書ライブラリーで1冊のペーパーバックを手にした瞬間が、すべての始まりでした。『Not For Sale』、「(人は)売り物ではない」という題名のその本は、現代によみがえった奴隷制度について語り、人身取引が世界中で起きている現実に警鐘を鳴らすものでした。

騙されて売春婦となったカンボジアの幼い少女、わずかな借金のせいで親戚ごとレンガ工場の奴隷労働者となったインドの家族、出稼ぎに行くつもりで実はイタリアへ売り飛ばされたモルドヴァのシングルマザー、誘拐され兵士という名の殺戮マシンになることを強制されたウガンダの少年……。翻訳者の私はその悲惨な実話に衝撃を受け、と同時に、被害者の救出と再生を支援する多くの人々の行動と言葉に勇気と希望を与えられ、この本を自ら翻訳して世に出すことで、日本の人々にもこの問題を知らせたいと出版社に売り込みました。

3年半かかって訳書『告発・現代の人身売買』(朝日新聞出版)が発行され、ホッとしたのもつかの間、著者のデイヴィッド・バットストーンが、訳書出版に合わせ来日すると言ってきたのです。あわてて編集者と共に講演会を企画し、日本の関連NGOや法律事務所、ビジネス界の人々との面談をセットし、取材、記者会見、ラジオ出演などの日程を、関係者の協力も得て調整しました。バットストーンは2007年の著書出版と同時にやはり「Not For Sale」という名の団体を立ち上げており、2011年の来日の際に、その日本支部をやらないかと私に声をかけてくれました。私は翻訳者としての仕事にいったん区切りをつけ、それまで無縁だったNGO活動に、全くの手探り状態で飛び込みました。

こうして始まったノット・フォー・セール・ジャパンは、日本でも数少ない、人身取引をテーマに活動している団体です。でも決まったオフィスも有給職員も置かず、スタッフは皆ボランティア。「やれるときに、やれることを、やれる人が、やる」をモットーとし、活動はかなりゆるいものです。それでも、年間十数件の講演やイベントを企画運営し、SNSや各種メディア、自前の啓発用資料を通して情報発信を行うことで、多くの人に人身取引の実態を知らせています。

またここ数年は「人身売買禁止ネットワーク」の運営委員、「消費から持続可能な社会をつくる市民ネットワーク」の共同代表として、政府との意見交換、セミナーの企画運営、国際人権条約に関するNGOレポートの作成、「企業のエシカル通信簿」調査等に関わっています。その分NFSJ単独の活動が少し減ってきてはいるものの、社会に与えるインパクトは大きくなっていると自負しています。

NFSJは被害者や加害者、いわゆる当事者と関わる場面がほとんどありません。学生や企業や政府の方を含め、もっぱら一般の人たちに向けての啓発活動や協議です。「当事者と関わらずして、現場を見ずして、真の問題解決に向けた啓発活動などできるのか?」という疑問は、実は自分でも常に抱えています。

でもそんな時に思い出すのは、アメリカ人女優ミラ・ソルヴィノさんの言葉です。2011年に私も参加したNFSのグローバルフォーラムに登壇したソルヴィノさんは、「人身売買の被害者に実際に会う人は、そう多くいるわけではない。だとすれば、あなたが被害者について話さなければ、いったいだれが話す?」と語ってくれました。当事者支援を行っている他の団体から日常的に話を聞き、国内外の報告書や報道、本や映像から情報を得ることで、少なくとも日本における人身取引問題については、全体像をある程度まで把握することは可能です。

まずは知ること。知ってそのあとどう行動するかは、その人次第。でもとりあえず、まずは知ること。そこからすべてが始まると思っています。私にとってのあの1冊の本のような存在に、NFSJがなれたら…と願っています。

今日7月30日は国連が定めた「人身取引反対世界デー」。NFSJのこのウェブサイトが開設されてから、ちょうど1年です。ウェブサイトのトップページにここ1年変わらず掲げてきたストーリーにも、もしまだだったら、ぜひ目を通してみてください。これをSNSでシェアしたり、お友達や家族に話すこと――その1つのアクションが、問題解決への貴重な貢献です。

頼りない代表ですが、一緒に歩んでくれるボランティアスタッフの面々、関係者・支援者の皆さまに支えられていることに、心から感謝しています。これからもよろしくお願いいたします。

スタッフのリレーエッセー (4) 傍観者であっては (星出卓也)

もう10年以上前のことになります。私の住んでいる田無駅近くに、決まって夜10時を過ぎると、外国人の若い女性が通りに立ち、男性に声を掛けていました。私も何度か片言で「お兄さん、マッサージあるよ」と声を掛けられました。その後ろでは決まって女性を監視する人が見張っています。どうして外国の女性が日本で深夜に通りに立って売春をしなければならないのだろうと思っていました。

その頃、映画『ネファリアス』を観ました。騙され、暴力によって売春を強要されて奴隷のように扱われている女性たちが世界中に存在するひどい現実を知り、そしてこの日本も決して例外ではないことを知らされ大変ショックでした。都市の中に当然のごとく存在する性産業の中に、恐ろしい実態が隠されていること。あの私が住む町の駅前に立っていた女性も、そのような一人だったのではないかと思うと、本当に身近な場所であのような現実があったのかと思うと、他人事のように、傍観者のように「どうしてあの女性はあのような仕事をしなければならないのだろう」と呑気に考えていた自分が恥ずかしくなりました。このような事態に対して傍観者であってはならず、何かをしなければと祈るようになりました。

救出活動を行うことは本当に大変なこと、仕事の合間にできるような簡単な問題ではなく、今も無力な自分を悲しく思う日々です。それでも許されない現実が私たちの身近にあることを人々に伝えたいと思います。アダルト業界や性産業が氾濫し、多くの男性たちが少女たちの性を買っている裏で、恐ろしい人権蹂躙と性奴隷の現実があることを伝えなければと願っています。

吸血鬼ドラキュラだって太陽の光が当たれば死にます。その本当の実態が人々の前で可視化され、人が物であるかのように売買されるひどい現実が白日の下に明らかにされれば、そのような産業は産業として成り立たなくなると信じて、非力ながらこの運動に加わらせていただいています。

スタッフのリレーエッセー (3) 私が人身取引や現代奴隷に関心を持つ理由(ミシェル・ロバーツ)

世の中で、悪いことが起きていることは知っていました。でも私自身がそれに加担しているとは、2011年まで知りませんでした。

その年、デイヴィッド・バットストーン氏の講演に参加したのです。騙されたり誘拐されたりして、レストランや売春宿で強制的に働かされる人々の話を聞きました。感情的に心理的に、そして多くの場合身体的にも虐待を受ける、搾取される人々のことです。バットストーン氏の話は説得力がありましたが、私はその裏付けが欲しいと思いました。すぐにはノット・フォー・セール・ジャパンの活動に参加できなかったので、多くの時間を使ってリサーチをしました。

それでわかったのは、私の日常生活が、人身取引と現代奴隷制を支えているのだということでした。私のスマホの原材料(部品)から、着ている服、そして調理に使う塩までもが、多くの人々の命を奪っていたのです。まず自分のライフスタイルを変えることから始めましたが、さらに行動する必要を感じていました。その頃韓国に転居し、人身取引や現代奴隷制をなくすために、いくつものNGOでボランティアをしました。

今、私はこれまでの買い物習慣を常に見直し、また性的・労働両分野の人身取引について啓発活動に加わっていますが、自分ひとりで解決できる問題ではありません。搾取されている人々の生活に変化をもたらすためには、私たちみんなが一緒になって働く必要があるのです。

自分が何人の奴隷を使っているかを知るために、SlaveryFootprint.orgのサイトで、ぜひアンケートに答えてみてください。

 

スタッフのリレーエッセー (2) あなたに生きていて欲しい!(栗山のぞみ)

人身取引の被害者に出会ったこと、あるいは声をかけられたことがあるでしょうか?

私は、あります。多分あると思います。

30年近く前のこと。我が家にホームステイしていたタイ人の留学生ソムシリさんが勉学を終えて帰国することになり、成田空港に見送りに行きました。そのとき、二人のアジア系女性に声をかけられました。私ではなく、一緒にいたソムシリをタイ人と見て声をかけてきたのです。ソムシリに聞くと、彼女たちは典型的な北タイの人。(ソムシリもチェンマイ出身で典型的な北タイの顔なので彼女たちにもタイ人だとわかったのでしょう、とのこと)彼女たちは逃げてきたと言っている。国に帰りたい。しかし、航空券もパスポートもない、と。ソムシリの乗る飛行機の時間は迫っているし、私ひとりではタイ語も通じないし(彼女たちは、ほとんど日本語を話せませんでした)、どうしたものか……と思いました。

ソムシリと別れた私はどうしたのか。実はほとんど記憶がありません。確か、空港のガードマンのような人に「あそこにいる人たちが困っているようなので、助けてあげてください」とかなんとか言って立ち去ったのだと思います。

その後長い時間を経て、2011年にNFSJを立ち上げて間もない山岡万里子の講演を聞く機会がありました。そのとき記憶の奥に埋もれていたあのシーンが蘇ってきました。「あの二人は人身取引の被害者だった!」。とくに一人の方、必死にソムシリと私に話しかけてきた女の子の様子を思い出しました。褐色の肌、黒髪のおかっぱに黒い眉と必死な黒い瞳が印象的でした。服装は白っぽいTシャツ、ショートパンツをはいていて足は素足にビーチサンダルか安っぽいミュール。空港にいるのに、旅行鞄のような荷物は持っていませんでした。

あの彼女たちはその後どうなったのだろう……と今も考えています。人身取引の被害者であった可能性はかなり高いはず。故郷に帰ることはできたのか。それとも、ブローカーに見つかり、表向きは飲食店を装った売春宿か何かに連れ帰られてしまったのではないだろうか。その先は想像したくないけれど、人身取引の実態を学んだ今は、想像できます。心も体もボロボロになり、どんな絶望的な日々を送ったことでしょう。

きっと当時の私たちと同じ20代前半だったはず。まだ、生きているだろうか。生きていて欲しい。せめて、故郷にたどりついていて欲しい。

こう思うと嘆き、疼きが湧いてきます。しかし私は、過去の自分を責めることは、もう、していません。

人身取引という犯罪があること、その被害者はどのような人なのかを知ったからです。

この日本にも人身取引があることを私は知りました。加えて、日常生活の中で世界じゅうの奴隷労働やあらゆる搾取と無関係でいるのはとても難しいこと、被害にあった人は心身ともに大きな傷を負うこと、たとえ救出されても自分を責めてしまったり、自己肯定感を持てずに苦しむこと、家族や社会に受け入れられることが難しい場合も多々あることを学んできました。

知ることは楽しいことばかりではありません。恥、悲しみ、絶望感、怒りなどを味わうこともありました。もちろん、今でも。でも、知らないままでいるよりも、知っていることは私を生かす力になりました。今、彼女たちのような少女たちに出会ったら、どこにどうやって連絡をとるか、誰に相談すべきかを知っている。それは私の存在をこの社会の中で少しだけ豊かにしてくれています。

また、このことに気づき動き出している人たちと出会っていることも希望です。海外にも日本にも多くの団体があり、人身取引の実態を調査したり、人身取引犯罪のある地域に働きかけたり、被害者救済を行ったり、被害者になりがちな人々に働きかけ別のビジネスを起こして予防したり、あるいは政府や警察に実態を知らせて協働しながら対策を立てたりしています。

私たちNFSJは、人身取引をなくすことを目的に、まず、この犯罪について広く皆さんに知っていただくことを主な目的として活動しています。また、他の市民団体とつながり、人身取引のない社会を目指して政府や企業に働きかける提言活動も行っています。 この動きに加わるために、人身取引の専門知識は必要ありません。ただ、「すべての人が自分らしく、生き生きと生きる世界を見たい」という願いがあれば十分です。その世界を見るために、ぜひ、仲間に加わってください。

栗山のぞみ

スタッフのリレーエッセー (1) 私がNFSJでボランティアする理由(キャシー・バートンルイス)

人身取引についてほとんど何も知らなかった私がこの問題を知ったのは、7年前、ノット・フォー・セールの創設者デイヴィッド・バットストーンの講演を聞いたときでした。それと同時に現在日本支部の代表を務める山岡万里子と出会い、 以来この団体の活動に関わってきました。

人身取引の問題を知るにつれ、私は衝撃を受け、心がひどく痛みました。子どもや若者など、社会の最も弱い立場にある人々を傷つける、狡猾で邪悪な行為だからです。日本の人たちに人身取引を知ってもらうための様々な活動やイベントに参加してこられたことを、私は光栄に思っています。なかでも特に意義深い活動として挙げたいのが、世界の性売買の実態を取り上げたドキュメンタリー映画、『ネファリアス~売られる少女たちの叫び~』の上映イベントです。映画が描き出すこの産業の恐ろしさは衝撃的ですが、私たちは自分たちの「安全地帯」から抜け出して、性の売買、そして非人間的な労働慣習を通じてこの悪が世界に蔓延していることに、気づく必要があると思います。

人身取引について知り、どんな兆候から被害に気づくかを知れば知るほど、この忌まわしい産業に終止符を打つための、より良い備えができるはずです。この取組みに加わるのに、予備知識や専門技術は不要です。ただただ、人身取引を終わらせたいという願いさえあれば――。私たちのこのチャレンジに、あなたも参加してくれませんか?

(最初の『ネファリアス』上映会にて~2013年)