Vol.2 よりよい社会を作る力は、私たちひとりひとりが持っている ~ 山岸素子さん《移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連/SMJ)事務局長・日本カトリック難民移住移動者委員会(J-CaRM) 委員》 ~

NFSJが所属する「人身売買禁止ネットワーク」(JNATIP)で、ここ7年ほどご一緒している山岸素子さん。移住連事務局長とカトリック難民移住移動者委員会委員として、労働搾取・性的搾取に関連し、主に日本在住外国人の支援に走り回っておられます。その原動力はどこにあるのかずっと知りたいと思っていたので、この機会にじっくりお話を伺いました。

NGOとしてのキャリアは大学時代から
山岸さんは高校時代から世界の貧困や格差の問題に関心を持ち、開発経済を学ぶために上智大学の経済学部に進みました。ところが経済学的アプローチがどうにもしっくりこず、草の根のNGO的な手法で問題解決を図りたいという気持ちが芽生え、なんと1年生の時に、フェアトレードを扱う「第三世界ショップ」(フェアトレードショップの老舗です!)を同級生と一緒に立ち上げたんだそうです。東南アジア各地にも出かけ、様々な活動に携わりました。卒業後はPARC(アジア太平洋資料センター)に就職。最初からNGOの世界でキャリアを始めた、根っからのアクティビストです。

その後、移住連創設の1997年から事務局次長を務め、またカトリック教会の団体にも勤務し、育児のために一時的に一線からは遠のいたものの、40代で移住連の共同代表を経て、NPO法人設立の機会に事務局長に。人身取引を含め、困難を抱える移住女性や外国人労働者を支える直接的な支援、政府や国会議員に働きかけるアドボカシー、またネットワーク内での関連団体との調整役として、移住連・カトリックの両方において、大切な働きを担っておられます。

活動の原動力は、移住女性たちのコミュニティとの関わり
その原動力はどこにあるのかを尋ねると、一つには、学生時代からアジアを旅したり日本国内で外国人労働者らと接するなかで、まったく異なる文化や背景を持った人々と出会い、自分が豊かに変わっていったという実感。そしてもう一つ、創設メンバーの一人として立ち上げた、DV被害を受けた移住女性のための支援センター「カラカサン」の女性たちに、むしろ自分が救われた経験を挙げてくれました。

今で言う「ワンオペ」状態だった山岸さんが、まだ幼かった息子さんたちを連れてカラカサンに行くと、もっと大変な状況にあるはずのシングルマザーの移住女性たちが、優しく助けてくれた。日本とは違う価値観を持つコミュニティに救われたという実感が、自分をエンパワーしてくれた。だから、こうしたコミュニティを大事にしたい、日本人として恩恵を受けている自分が少しでも力になりたい、と語ってくれました。

人身取引問題について思うこと
あらためて「人身取引」についてどう思うかを問うと、「人間の尊厳の否定」という答え。そして人間の尊厳が否定されている社会では、すべての人が、搾取に遭う可能性がある。だから変えていかなくちゃいけない――。

山岸さんが一般の人に一番伝えたいのは、「よりよい社会は自分たちで作っていける」ということ。一人一人が変える力を持っている。そのことを特に若い人たちに伝えたいと思っている、と語ってくれました。忙しい中いくつか大学でも教えておられ、今の学生さんたちが経済的な面でも余裕をなくしている状況を目の当たりにして、社会が、そして政治がなんとかしなくちゃいけない、という思いでいるとのことです。

私も日頃から、若い人たち、そして子どもたちについて、その力を奪い取るのではなくエンパワーする社会にしていかなければ…と考えていたので、山岸さんの言葉に大きくうなずいたのでした。NFSJにはこれからも、「日常生活の中で自分たちにできること」を発信し続けてほしい、という願いを託してくださいました。JNATIPで山岸さんとご一緒できていること、あらためて、とても嬉しく思いました。(山岡万里子)

《参考》
・移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)Solidarity Network with Migrants Japan (SMJ) https://migrants.jp/index.html
・日本カトリック難民移住移動者委員会(J-CaRM)https://www.jcarm.com/
・J-CaRM内 人身取引問題に取り組む部会(タリタクム日本)Talitha Kum Japan https://www.jcarm.com/activity/thalitakum/